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事故や事件の災害に「周年」という言葉の使い方は誤りか ~「周年」と「年目」の使い分け

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結婚5周年や開店10周年など、慶事に使われる印象の多い「周年」という言葉。「周年」を事故や事件の災害のときに使うのは不適切であるという意見もあり、取扱いに慎重になるメディアが増えてきました。

「周年」の意味は何か、不幸なことに使用することは問題ないのか

pray

明鏡国語辞典第2版から周年の意味を引いてみます。

周年の意味は《数を表す語に付いて》ある物事が始まってからそれだけの年数が経過したことを表す。「創立三〇周年記念」「震災一〇周年を迎える」

「周年」は物事が経過した年数を表すので、慶事だけでなく災害や不幸な出来事に用いることが可能であることがわかりますね。意味としては「+(プラス)」にも「-(マイナス)」にも使用することができます。ただ、明鏡国語辞典第2版では本来の意味に続く形で、次のように説明もしています。

[表現]多く、慶事の記念に言う

「周年」は主に慶事に用いられる。つまり、意味としては「+」でも「-」でも用いることができますが、実際の用例としては「+」の画面で使われることがほとんどで、「-」の場面では用いない方が良いということを示唆していることが読み取れます。

「周年」を事故や事件の災害で使うことに違和感を覚える人は多い

役所が内外に対して用いる「周年」では、「-」でも用いられています。

本日,東日本大震災から3周年を迎え,ここに一同と共に,震災によって失われた人々とその遺族に対し,改めて深く哀悼の意を表します。

引用元:主な式典におけるおことば(平成26年):天皇陛下のおことば – 宮内庁

東日本大震災2周年復興イベント
(平成25年3月11日・文部科学省)

引用元:文化庁 | 文化財 | 東北地方太平洋沖地震 関連情報 | 東日本大震災2周年に当たって

宮内庁や文化庁では、東日本大震災に関する挨拶や事業においても「周年」という言葉を用いていますね。公用語では正しい意味の言葉を使用することが求められますので、これらの省庁が「周年」という言葉を不幸な出来事に用いることは問題がないというわけです。

ただ、私たち、一般人の感情に「周年」という言葉を災害などで用いるのは違和感があるとする声が増えてきているのも事実。報道機関では不幸なことに対して「周年」という言葉を用いないようにする動きも出てきています。

注目したいのは、毎日新聞は周年を「-」の意味で用いることは誤りとは言わず、不適切であると表現している点です。受け取る相手が誰であっても内容を想像できる表現を用いる必要がありますと以前お伝えした通り、報道機関は、正しい言葉の使い方とそれを読む側の理解の差を埋める役割も求められています。この微妙な立場であるが故に、毎日新聞では「周年」という言葉の使い方について、一部の一般読者の方の感情に配慮して独自の社内ルールを設けているというわけです。

「おめでたいことなら『周年』で良いが、遺族としてはずっと引っ掛かっていた。被災地ではそれぞれの人にそれぞれの思いがある。私にとっては『20年』の方が受け入れやすい」

引用元:神戸新聞NEXT|社会|震災「20周年」やめ「20年」に 兵庫県、遺族に配慮

兵庫県では、阪神淡路大震災の遺族の方に配慮を見せるという形で2014年からは周年という文字を用いないことを決めました。余談ですが、私の住む明石市では「阪神淡路大震災という表現では明石市の被害が甚大ではなかったように思われる」という意思表示として、「兵庫県南部地震」という表現が用いられることが多いそうです

「周年」と「年目」の区別

周年という言葉は「~年目」という言葉との混乱を招く可能性があるので、時の経過をわかりやすく表すという効果もあります。

たとえば開業3周年とは開業4年目でもあり、正確な時の経過を伝えられない状況が考えられます。これまでの時間を意識するときは「周年」、これからの時間を意識するときは「年目」という言葉を用いるわけですが、花や記念品、祝電などが贈られる「おめでたいイメージ」の時間の経過を伝えるときは、やはりこれまでの時間が意識されることがほとんど。イベントには周年、決意には年目という覚え方をしても良いかもしれませんね。

周年という言葉は「+」で用いられることが多かった結果、「-」の場面で用いることに違和感を覚える人が増えてきました。2019年現在、慶事のみで用いると書いた辞書はありませんが、言葉に抱く印象が言葉や文化の持つ意味を大きく変えてきたのは歴史を振り返れば明らか。これからの定義、用例には注意して、「周年」を使用する際には十分な配慮をするようにしたいものです。