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駅のホームの列車接近案内放送「危険ですから」と「危ないですから」、正しい使い方はどっち?

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駅のホームで列車がやってくるのを待っていると、「まもなく列車がまいります。危険ですから黄色い線の内側におさがりください」「危ないですから白線の内側まで下がってお待ちください」という案内が流れてきます。鉄道会社や地域によってこの使い方は色々あるようですが、この「危ないですから」という表現、どうやら違和感を覚えられる方が多いようです。

「危険ですから」には違和感はないが「危ないですから」には違和感がある?

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「危険ですから」「危ないですから」という言葉。特にこの「危ないですから」という表現については違和感を覚えられる方が多いのはどうしてでしょうか? また、「危ないですから」という表現は日本語として誤りなのでしょうか?

「危ないですから」という形容詞+ですの表現は現在では誤りとされない
(一応、日本語としては使っても良い)

結論を言いますと、「危ないですから」という【形容詞+です】の表現は現在では誤りとされないことになっています。回りくどい書き方をしていますが、この「形容詞+です」の表現は昭和27年の国語審議会で「使ってもいいことにしよう」と許容された表現なのです。

文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 第1期国語審議会 | これからの敬語(建議)| 動作のことば/形容詞と「です」/あいさつ語/学校用語
7 形容詞と「です」  これまで久しく問題となっていた形容詞の結び方――たとえば,「大きいです」「小さいです」などは,平明・簡素な形として認めてよい。 …

「危ないです」という言葉は「危ない」という形容詞に「です」という丁寧語を添えた使い方。この「です」を「だ」に置き換えてみましょう。

〇彼は学生です → 彼は学生だ
×電車が来るので危ないです → 電車が来るので危ないだ(危ない+だ)

こうして見ると、なるほど、「形容詞+だ(です)」という表現は元々、誤用であったことが分かります。それまでは「危のうございます」という書き方が正しいとされていたのですが、やや、仰々しい表現であって会話言葉としては使いにくく、「危ないです」という言葉が一般に使われるようになったため、使用が許容されるようになったという経緯があります。

「危ないですから」という表現を用いることのメリット

上述の通り、「危ないですから」という表現は現在では許容された「誤用ではない」使い方になっています。

それでも、違和感を覚える方が多いのであれば、ここは無難に「危険ですから」という表現を用いた方が問題になりにくいのではないかという考え方もできるでしょう。では何故、「危険ですから」を使わずに「危ないですから」という表現が用いられるのか。

ここからは推測ですが、「危ないですから」という表現に違和感を覚える方がいるということは、その違和感の分だけ「気になってしまう=危険性を伝える効果がある」可能性が生まれます。危険であるという状態への注意喚起は、日常に溶け込む言葉であってはなりません。白い画用紙に黒い汚れがあれば気になるように、「危ないですから」という(やや違和感の残る)表現は心に留まりやすい音であるといえます。

また、高齢の方ほどこの「危ないですから」という表現に違和感を覚える方が多いということは、より注意の必要な世代に対して響きやすい表現であるという判断ができます。「KIKEN」と「ABUNAI」であれば、発声のはっきりしている「あぶない」の方が聞こえやすいという狙いもあるのだろうと思いますが、いずれにしても、目前に迫った危険性を、より注意の必要な人たちには、あえて違和感のある表現で伝えてみるというのは有効な方法のひとつかもしれませんね。