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「押っ取り刀(おっとりがたな)で駆けつける」の誤用と正しい意味と ~おっとりしてません!

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「押っ取り刀(おっとりがたな)で駆けつける」という表現を「ゆっくり落ち着いて行く」という意味で考えてしまうと誤用。「おっとり」という言葉は「ゆったり」「ゆっくり」「落ち着いている」という意味を持つ副詞ですが、「押っ取り刀」と書くときは違う意味になるので注意が必要です。

誤用されることの多い「押っ取り刀(おっとりがたな)」の正しい意味は

katana

「押っ取り刀(おっとりがたな)で駆けつける」は「急いで駆けつける」という意味。「ぶらぶらと行く」「ゆっくりと向かう」という意味ではありません。

「押っ取り刀で駆けつける」とは「取るものも取りあえず急いで駆けつける」という意味。ゆっくり向かうという意味で使うのは誤り。

「押っ取り刀」の「押っ」の部分は「押し」という接頭辞が変化したもの。「押し」には「無理に~する」「強いて~する」という意味があります。

「嫌なことを他人に押し付ける」や「この意見で押し切った」という表現で用いる「押し」ですね。「おっ」に変化した表現で馴染み深いものといえば「おっぱじめる」「おったまげる」などがあります。「押し」が「おっ」という形に変化すると動詞に勢いがつくのはイメージしやすいのではないでしょうか。「押し」が「おっ」に変化した場合は、動詞を強調して「勢いよく~する」という意味になるということを確認しておいてください。

「押っ取り刀で駆けつける」が「急いで行く」という意味になる理由

「押っ」が「勢いよく」という意味、「取る」が「刀を取る」ことはわかりました。では、勢いよく刀を取ることが急いで行く意味になるのはどうしてなのでしょうか。

時代劇を思い浮かべると、通常、武士たちは刀を左腰にさしています。これは利き腕が右手であるため、左側にさしていたほうが抜き差しを行いやすいという理由によるもの。余談ですが武家に生まれると、左利きであっても必ず右利きに矯正されたそうです。

そして、人の集まる場では敵意がないことを周囲に示さねばなりません。つまり、刀を扱いにくい身体の右側に置くことが作法とされたのです。この状態で有事になると、武士たちは左腰に刀をさし直す時間も勿体なく、右手に持ったまま(取るものを取ったまま差すことなく)急いで立ち上がり場に向かっていきました。本来は腰にさすものを、右手で掴んだままに走り出すから「取るものも取りあえず」。そうして「押っ取り刀」が「急いでいる」「慌てている」様子を表すようになったわけです。

そういえば、武士は身体を横にして眠るとき、利き腕(右手)を枕にしていたそうです。これでは急襲されたとき、右手が痺れて使い物にならない気がするのですが、武士にとって利き腕を斬られるということは当時致命的なことでした。武士として生きていくため、万が一斬られるとしても利き腕ではない方を…という意味で左手を上にして身体を休めたというのは考えさせられる話ですね。