「姑息」には「卑怯」という意味はなかった! ~姑息の誤用と正しい意味と
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140文字で変わる表現力 姑息, 由来, 誤用
「姑息な手段を使いやがって」という言い方を聞くと、卑怯な方法で解決に至ったことに憤っているような印象を受けますが「姑息」を「卑怯」という意味で考えるのは誤用です。姑息の正しい意味は何でしょうか。
「姑息」は誤用されることが多いが「卑怯」という意味はない
「姑息な人間だ」と人を罵るときに用いられることの多い「姑息」という言葉。「姑息」には「卑怯」や「ケチ」という意味はありません。
「姑息」とは「その場しのぎ」「一時のまにあわせに物事をする」こと。
「姑息」とは「その場しのぎに何かをする」「一時のまにあわせに物事をする」という意味。たとえば大怪我をして出血の酷いとき、病院に到着するまでの間にガーゼや包帯で止血をすることがあります。これが「姑息な方法」の正しい使い方。根本的な解決にはならずとも、間に合わせに何かを行う仮の方法や手段のことを言います。会話では「とりあえず」という言葉で使われる感覚が「姑息」ですね。
また「小癪(こしゃく)」と音が似ていることもあって、小癪の意味である「生意気・こざかしい」と混同されることも多いようです。
「姑息」の由来と故事
「姑息」がどうして「とりあえず」「一時のまにあわせ」という意味になるのか。
「姑」にはしばらく「息」にはやむ・しずめるという意味があるので「しばらくその場をしずめる」というのが熟語としての成り立ちとなります。また、文化庁の言葉のQ&Aでは姑息の故事について説明を行っていますね。
「姑息」は「礼記らいき」(檀だん弓ぐう上)の故事にある,孔子の門人,曽子の言葉に由来します。病床にあった曽子は,自分の寝台に,身分と合わない上等なすのこを敷いていました。お付きの童子にそのことを指摘された曽子は,息子の曽元にすのこを取り替えるよう命じます。曽元は,父の病状の重いことを考慮し,明朝,具合が良くなったらにしましょうと答えます。それに対し,曽子は,お前の愛は童子に及ばないと,次のように言いました。
「君子の人を愛するや徳を以もってす。細人の人を愛するや姑息を以もってす。」(君子たる者は大義を損なわないように人を愛するが,度量の狭い者はその場をしのぐだけのやり方で人を愛するのだ。)
その場にいた者たちは,曽子を抱え上げてすのこを取り替えますが,彼は間もなく亡くなってしまいました。曽子は,一時しのぎの配慮に従って生き長らえるよりは,正しいことをして死ぬ方がよいと考えたのです。
「君子の人を愛するや徳を以もってす。細人の人を愛するや姑息を以もってす。」とは、義理や道という正しい行いを生きて一時しのぎの配慮を拒絶した曽子の言葉。死に方とは即ち生き方、たとえそれで病気の身体に影響が出たとしても、曽子は正しく生きて死んでいきたいと思ったのでした。
文化庁が行った「国語に関する世論調査」でも7割以上の人が間違えていた「姑息」
文化庁が行った平成22年度の「国語に関する世論調査」でも7割以上の人が「姑息」を「ひきょうな」という意味であると回答しています。
ただし、リンク先にも書かれている通り「姑息」そのものには「卑怯」という意味はありませんが、根本的な解決を行おうとせずその場しのぎのやり方を繰り返していると、やはり「卑怯」な人間であるという評価をされてしまうことがあります。意味としての誤用は多いものの、文脈としては結局誤用が示す通りであることが多い「姑息」。時間やお金の制約があっての「姑息」であっても、できるだけ早く根本的な解決に向けて行動していくようでありたいですね。
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