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「存じ上げております」と「存じております」という言葉の使い分けについて ~「ご存じ」の色々

「存ずる」という言葉は「思う、考える」「知る、承知する」意の謙譲語。「こちらの服の方がお似合いかと存じます」「よく存じております」という使い方をします。

では問題。「明石という土地の地名の由来をご存じでしょうか?」と相手から問われて「はい、存じ上げております」と回答するのは正しいでしょうか、間違っているでしょうか・

「存じ上げる」と「存じる」の使い分け ~「上げる」という言葉の使い方

akashi

「存じ上げる」という言葉は対象が「ひと」であるときに用いるので、「もの」に対して用いるには違和感があります。「○○さんのことは存じ上げております」という表現と「○○のことは存じております」という表現の違いを理解しておきましょう。

「存じ上げる」は対象が「ひと」のときに用いる表現、「存じる」は「ひと」にも「もの」にも用いる表現

「上げる」という言葉は謙譲の意を表す動詞について、その謙譲の意味を強めます。上でも書いた通り「存ずる」という言葉は謙譲の意味を表す動詞。「存じ上げる」という言葉は文法上は問題ありませんが、自分が一歩さがって対象を高める表現が謙譲語であるのに、対象となる「もの」にまで敬意を向けるのはあまりにもへりくだり過ぎてしまうことになります。過剰な敬意は嫌味になってしまうということについては解説の必要はないでしょう。

「存じ上げる」「申し上げる」という「謙譲語+上げる」の表現は「ひと」を敬うために用いる、その理由は「もの」にまで敬意を示すのは過剰であるからだ、と理解しておいてください。

(※ただし、相手の名前などは「そのひと」そのものと考えますので、「お名前は存じ上げております」と書いても問題ありません)

「ご存じですか?」という表現は誤りか

会話例として「ご存じですか?」という表現を書きました。

「存ずる」という言葉が謙譲語であるのなら、「ご存じですか?」と相手に対する尊敬語として用いるのはおかしいのではないのかという意見もあるのではないかと思います。このあたりは色々と争いもあるようですが、「ご存じ」という言葉を「存じ」の尊敬語であるとして一応の解決を見ています。現在の一般的な解釈としては「ご存じですか」という表現は誤りではないということです。

「ご存知」と書いてしまうのは誤りでしょうか

さて、今回の記事で話題にした「存じ上げております」「存じております」という表現は「存ずる」という言葉が変格したものでした。少し難しい言い方をすれば「存ずる」というサ行変格活用動詞の上一段化したものが「存じる」という言葉になります。

つまり、「存ずる」という言葉が変化しただけのものであって、「存ずる」という言葉に「知る」という意味が含まれていることから「ご存知」という書き方になった、元々「ご存知」と書いてしまうのは誤りであったということです。

ところがこの「存知」という書き方があまりにも一般的になってきたため、最近の辞書では「存知」と当てて書くと説明しているものがほとんどになっています。さらにややこしいことに「ご存じですか」という意味で書くときに当てる「存知」という表現とは別に「存知」という言葉が辞書には載っています。この「存知」は「ぞんじ」ではなく「ぞんち」と読むのが正解。意味は変わらず「知っていること、心得ていること」になります。古くは平家物語でもこの「存知(ぞんち)」という言葉は使われているんですね。

長くなりましたが「存ずる」という言葉は使い方に注意の必要な言葉。へりくだり過ぎた表現にならないよう、今回もしっかり声に出して使い方をマスターしてください。


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  • 西端 康孝 / コピーライター・歌人・川柳家

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