*

「圧巻」の誤用と「圧倒」との違いについて ~「演技は圧巻だ」という表現は正しいのか?

「あべのハルカスの高層階からの眺めは圧巻だ」「フィギュアスケートのA選手の演技は圧巻だった」という表現を耳にすることがあります。「圧巻(あっかん)」をそれぞれ「壮観」や「圧倒的」という意味で使っているようですが、圧巻という言葉の正しい意味から考えると「壮観」や「圧倒的」というニュアンスで用いるのは誤用。今回はこの「圧巻(あっかん)」という言葉の正しい意味と使い方について整理してみましょう。

「圧巻」の誤用と意味について ~「圧巻」と「圧倒」の違い

study

「圧巻」という言葉は「圧倒」という言葉と似ているため、意味を取り違えられることがあります。「圧倒」の意味は「優れた力で周り(他)を押さえつけること」、そして「圧巻」の意味は「一つのモノやコトのなかで優れているところ、部分」を表します。

「圧巻」とはひとつのモノやコトのなかで優れているところ、部分を表す。「圧倒」とは周囲よりも優れていることを表す

ひと言でまとめると、比較する対象が外にあるものが圧倒、一つのもののなかで特に優れている部分を示すのが圧巻ということになりますね。

たとえば映画のワンシーン。「宇宙人から地球を守った主人公の戦闘シーンは圧巻だった」という表現は、ひとつの映画のなかの他のどのシーンよりも良かった、感動的だったという意味で正解であると言えます。そしてこの映画のタイトルが『地球の平和』だったとして「地球の平和の脚本や俳優たちの演技は素晴らしく、他の映画を圧倒していた」という表現をした場合は比較する対象が外にあるので「圧倒」という表現が適切であると言えます。

「圧巻」という言葉が故事成語になった成り立ちを覚えておくと区別しやすくなる

圧巻は一つのモノやコトの中で優れているところ、圧倒は外にあるものとの比較で考えるのだという話をしました。

ところで、この「圧巻」という言葉は故事成語に由来しています。故事成語とは昔の人の話や行動から生まれた言葉のこと。つまり物語になっているので、その成り立ちをちゃんとイメージしておくと以後、思い出しやすくなります。

昔、中国では役人になるために「科挙」という試験を受ける必要がありました。1000年以上も続いたこの試験制度は時代によって内容も大きく変化していますが、数日間にわたって行われるものが多く、また論述形式で解答する必要がありました。数日にわたって作文形式で答えを書いていくわけですから、これを採点する側も大変だったということは容易に想像できるのではないでしょうか。そうして、この何枚にも積み上げられた解答用紙の中から、特に優れた部分を解答用紙の山の一番上に置くようにして、ひとりの人間の解答の良い部分が一目で分かるようにしていったという経緯があります。「巻」とは書物という意味。積み上げられた書物の一番うえに最も優れた解答用紙を「圧す」ように置いた。これが「圧巻」の故事成語です。すべての試験官がすべての受験生の解答用紙を読むことは不可能だったので、いいところだけを選び出して置いていく工程(担当)があったというイメージですね。

ひとつの書物のなかで最も優れている部分を「圧巻」と呼ぶようになったということ。のちに、書物に限らず、ひとつの作品や催し物のなかで優れた部分を「圧巻」と言うようになったのだということを覚えておくと「圧巻」と「圧倒」は区別しやすくなるのではないでしょうか。





関連記事

「海千山千(うみせんやません)」という言葉の意味と誤用に注意! ~褒めるつもりで使うと?

海千山千(うみせんやません)という言葉があります。「社長は海千山千でいらっしゃいますから、さすがです

記事を読む

「請う」と「乞う」の違いと使い分け ~乞うご期待か請うご期待か

「許しを請う(こう)」「教えを乞う(こう)」などで使われる「請う」と「乞う」はお願いをするときに使わ

記事を読む

no image

毛布には挑むのではなく。

犬派の西端です。 猫を飼っている人は、部屋の出入りがしやすいようにドアを完全には閉めずに隙間を作っ

記事を読む

「御の字(おんのじ)」という言葉の誤用と正しい意味 ~満足だったのか、納得だったのか

「貸したお金の半分がようやく戻ってきた、まあいくらか返ってきただけでも御の字(おんのじ)だね」と御の

記事を読む

「秋味(あきあじ)といえば秋刀魚だよね」という表現が誤りである理由 ~秋味とは

秋刀魚や栗、芋やキノコなど様々な食材が美味しく感じられるようになる季節、秋。 ところで、秋の味

記事を読む

「不肖(ふしょう)」という言葉の意味と使い方に要注意!

「不肖(ふしょう)」という言葉は、「不肖山田太郎、一生懸命務めさせていただきます」という風に「私のよ

記事を読む

「弊社社長が逝去いたしました」という言葉を使ってはいけない理由

仏像![/caption] 「死」は忌み嫌うべき言葉で、直接的な表現は避けるべきとされてきま

記事を読む

「共に」「供に」「ともに」の使い分けと区別 ~「子供」と「子ども」はどう使い分けるべきか

「共に」「供に」「ともに」という表記は、それぞれどのように区別して使い分けをしたらいいのか。整理して

記事を読む

「混ぜる」と「交ぜる」の違いと使い分けを「さんずい」で覚える!

「絵の具をまぜる」「女の子のグループに男の子が一人まざっている」など「混ぜる」と「交ぜる」という漢字

記事を読む

「探す」と「捜す」の意味の違いと使い分けについて ~さがしたいものが見えているかどうか

「探す」と「捜す」という言葉は、どちらも読み方が同じであるため、その意味の違いと使い分けが紛らわしい

記事を読む

Google


▼よく読まれている記事▼


jyugyou
「べき」を文末に使うのは誤り ~「あなたは毎日努力するべき」という使い方をしていませんか?

古文の授業でならった「べし」という言葉は、今日でも、意志や教訓を表す文

dogeza
「不徳の致すところ」の意味と使い方 ~不徳がするからごめんなさい(謝罪)とは? ちゃんと謝罪の意味は含まれてるのか?

政治家や企業の不祥事、その謝罪の記者会見などで「不徳の致すところです」

ondo
利用頻度は高い?大きい? 頻度は高いのか大きいのか、低いのか小さいのか、正しい使い方と覚え方

あることが繰り返し行われたり、あらわれたりする度合いのことを「頻度(ひ

seityou
「感慨深い」と「感動」の違いは何? 「感慨深い」の正しい意味と使い方について

「感慨深い(かんがいぶかい)」という言葉があります。この「感慨深い」と

calendar
「抱負」と「目標」の意味の違いと使い分けは何? 「抱負」にはなぜ「負」という字があるのか?

新年にあたって抱負を語る、今年の目標を決めるという風に「はじまり」のと

→もっと見る

  • 西端 康孝 / コピーライター・歌人・川柳家

    コトバノを運営している神戸のコピーライター西端です。川柳や短歌で日常を綴る短歌と川柳とマカロニとというブログや徒然に毎日を表現する川柳をこよなく愛する明石のタコというブログもやっていますので、良かったら遊びにきてください。書いたり取材したり講演の仕事も承っています。

    路傍という写真に言葉遊びを散りばめたiPhoneアプリもリリースしました。また、こういうiPhoneアプリを出して世に自身の創作を広めていきたいという方のお手伝いもしていますので興味があればこちらの記事をお読みください。
  • follow us in feedly
PAGE TOP ↑