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「~しづらい」と「~しにくい」の意味の違いと使い分け ~入りづらいと入りにくいの違い

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以前、敷居が高いという言葉は誤用されることが多いという話をしました。

たとえば「帰るのが午前様になってしまって、家の敷居が高い」という意味で使うときは「家に入りづらい」と「家に入りにくい」のどちらの表現が適切であるか、ご存知でしょうか。今日はこの「~しづらい」と「~しにくい」の意味の違いと使い分けについてまとめてみます。

「~しづらい」と「~しにくい」の意味の違いと使い分け

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「帰宅が遅くなってしまって、家に入りづらい」「帰宅が遅くなってしまって、家に入りにくい」、どちらの表現も使えそうな気はしますが、このフレーズの場合は「家に入りづらい」と書くのが正解です。「~しづらい」と「~しにくい」の違いは何なのでしょうか。

「~しづらい」は心理的な理由によるもの
「~しにくい」は物理的な理由によるもの

「~しづらい」と書くときは心理的な理由、「~しにくい」と書くときは物理的な理由で使い分ける。今回の例でいうと、帰宅するのが遅くなったというのは家人に対する後ろめたさがあるわけです。家族に対して申し訳ないという気持ち、心理的な理由。午前様になったということは、まさに家の敷居が高くなった状態なので「家に入りづらい」と書きます。

一方、「家に入りにくい」と書く場合は物理的な理由によるもの。ハムスターのゲージに小屋を入れてあげたけれど、その入口がハムスターの身体に対して狭すぎるときは物理的な理由で出入りが難しくなりますね。この状態のとき、「ハムスターは小屋に入りにくそうだ」という表現を用いることになります。

「~しづらい」と「~しにくい」の実際の使い方の比較、覚え方

では、実際に「~しづらい」と「~しにくい」という言葉を用いた例で考えてみましょう。

居候なのでご飯のお代わりを「頼みづらい」(心理的理由)
あごの調子が悪いので、大きなお菓子は「食べにくい」(物理的理由)

この本は読みづらい
=(心理的理由なので)この本のレベルは高い、難しい
この本は読みにくい
=(物理的理由なので)活字が小さくて読めない

上司に怒られるのが嫌で、話しづらい(心理的理由)
周囲の騒音がうるさくて、伝えにくい(物理的理由)

それぞれ、似た表現ではありますが、「づらい」「にくい」で、心理的物理的な理由の状況をイメージしていただけるのではないかと思います。

「しづらい」と「しにくい」の区別の連想記憶法として「大きい肉は食べにくい」と覚えておくのはいかがでしょうか。「肉」と「にくい」をかけて、大きい肉という物理的な理由を思い浮かべるようにすれば、もう一方の「しづらい」は心理的な理由であることを導きやすくなるかと思います。

「しづらい」と「しにくい」の使い分けに関するその後の考察(2020/4/24追記)

小学館の日本国語辞典のように、「づらい」には心理的要因も物理的要因もあると明記している辞書もあります。こう考えると、私が説明した「心理的」「物理的」という基準で「づらい」と「にくい」を見分けるのは難しいということになってしまいます。

そこで漢字での書き方を検討してみることにします。

「し辛い」と「し難い」。前者の「し辛い」には「辛い」という字が入っていることから、言葉を用いた人(主体)の「心理的な感情」が伴っていることが分かります。それに対して「し難い」にある「難い」は「むずかしい・なかなかできない」という意味を表します。このことから、心理的な苦痛を伴う場合は「し辛い」、単に難しいことを表す場合は「し難い」と区別する方法もありそうです。

心理的な苦痛であるということは、主体が「人」であるか「物」であるかによって使い分けを検討することも可能です。たとえば「私は小さな字が見づらい」の主体は(苦痛を感じる)人間です。ですから「見えづらい」という書き方は正解であるといえます。それに対して「小さな字が見えづらい」と書いてしまうと、「小さな字」という物が主体になっていることがわかります。物には心理がないので、この場合は「小さな字が見えにくい」と書いた方が適切であると言えるでしょう。